君が為に日は昇る
それは以前、二人が稽古をした時であった。


「夜太君。貴方が私を師として仰ぐならば、幾つか守っていただきたいことがあります。」

「…これより、刀を持つことを禁じます。」


真田は自らを師とする条件として夜太に刀の携帯を禁じた。


刀は魂。そんな言葉もある程、刀は侍にとってかかせない物である。


「な、何故ですか?」


夜太が驚いたことは勿論のことである。


それに対し真田はこう語った。


「大義なき剣を振るうならば、それは侍に非ず。」

「貴方が振るう剣がもし浅ましい欲望の為に振るわれるならば。」

「それは只の罪人であり侍ではないのです。」

「剣を振るいそれに後悔を得るならば剣を捨て生きなさい。」

「何が為に剣を振るうか。剣を握るのはまずそれを見つけてからです。」





━何の為に剣を振るうか…。そんなことは決まっているのに。

━何故俺は悩んでいるのか。

━お雪とお稲婆の為じゃないのか。


前を走る真田の背中を見つめながら思う。


夜太の心に潜む影。真田はそれを見抜き、夜太にそれを乗り越えさせんとしていたのだ。
< 51 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop