君が為に日は昇る
そして彼らは表向きに、とある地方武家の一族とされていた。


それ故、妙に広い屋敷に住む彼らを疑う者はいなかったし、剣の稽古も自由にすることが出来た。


夕飯を食べ終わると夜太は庭に出て木刀を握る。


床につく前の稽古が彼の日課だった。


━何が為に剣を振るうか…か。

━お雪の為。お稲婆の為じゃないのか。

━それは間違っているのか。


「…わからん。」


そして今夜も彼は頭を抱える。


何がいけないのか。何故剣を禁じられたのか。


彼は毎日真田の言葉を頭の中で反芻していた。


未だ答えは出ない。


「いかん…。雑念が。」


そして剣を乱し、稽古が終わる。これも、既に日課になりつつあった。


━駄目だなぁ俺は。


縁側に腰をおろし深い溜め息を吐く。


━結局誰かに言われなければ何も出来ない。

━商才も学もない。この生活だって与えられたものだ。

━この上剣まで失ったら。俺には何もないではないか。


金色の満月が酷く歪んで見えた。


━俺の、存在に価値はあるのだろうか?
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