君が為に日は昇る
その若さ故に彼は己を追い詰めた。


成熟しない精神がその答えを導き出すことはなく、己の存在すらを否定するまでに苦しめる。


幼少よりひたすらに源五郎という道標を追い掛けてきた。


忠実に。


正確に。


ただ人を斬り続けた。父の言葉の上を歩いてきた。


それが彼の思考を支配している。


何故人を斬ってはいけないのか。


原因のわからない苦しみ。いつも何か視線を感じ、声を感じ、熟睡することの無い日々。


それを自らが葬った者への罪悪感とすら気付くことが出来ない。


今もただ、源五郎が自らに託した一人娘を守る。


父の言葉に従い、生きている。


自分は誰なのだ。


何故。何故。何故。


己の意思が無い。機械仕掛けの人形。


父の愛が、信頼が皮肉にも彼を苦しめる結果になっていた。


━解放されたい。この苦しみも、この痛みも。


人間が現実から逃れる為に。何をするか。その術だけを彼は知っていた。


━渇く。喉が渇く。


人を傷付ける。情欲の為に人を斬り結ぶ事。


それ即ち。


修羅道。
< 55 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop