君が為に日は昇る
闇が彼を覆い尽くしていく。激情に飲み込まれていく。


あの、父が撃ち抜かれた瞬間。陸野の言葉を聞いた時と同じように。


そして彼は立ち上がる。


人を斬りたい。その情欲に身を任せようとして。


だが立ち上がった彼の肩を、温もりが包み込む。


「大丈夫。大丈夫よ夜太。落ち着いて。」


その温もり。それがお雪の物だと気付いたのはすぐのことだった。


「…おゆ、き?」


闇に、僅かな光が射した。


「話して。悩みがあるんでしょう?」


優しい温もりが、身体中に広がる。


「全て受け止めるから。私は、貴方の…。」


━妻なんだから。例え、それが偽りの物であっても。


最後の言葉を飲み込み、お雪は夜太の頭を撫でる。


その姿は子供をあやす母のようであり。そして、愛を育む夫婦のように。


満月に照らされていた。


「…俺は、どうすればいい?」

「わからないんだ。」

「何の為に生き、何の為に死ねばいいのか。」


夜太は言葉を搾り出す。ありったけの思いを彼女ぶつけるように。


涙が頬を伝い、彼女の着物に小さく染みを作っていた。
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