君が為に日は昇る
「夜太はずっと私達を守ってくれてきた。」


しっかりと夜太を抱きしめながらお雪は言葉を紡ぎ出す。


「自分を殺して、父や私、お稲婆の為にずっと生きてきた。」


優しい声。


「もういいの。私達の為に生きなくて。」


綺麗な声。


「もう充分助けてもらって。色んなものをもらって。」


その涙が。


「これからは私も背負うから。」


その笑顔が。


「貴方の苦しみも、痛みも、涙も。」


いつも。


「私も背負うから。だから、だからね。」


いつも彼を救ってきた。

「もう、自分の為に生きていいんだよ。」


彼を癒してきた。


「夜太。貴方は自由なんだから。」


大きな、光が射した。


「俺は…。自分の為に生きていいのか…?」


こんなにも、すぐ傍に答えはあったのか。


「俺は拾われた子だから!本当の家族じゃないから!」


簡単で。難しい答え。


「だから!…自分の為に生きちゃいけないと思っていた!」


彼女が全て与えてくれた。


「強くなきゃいけないって思ってた!」


望んでいた答えを。


「貴方は本当の、家族よ。夜太。」


闇が、消えてなくなっていった。


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