君が為に日は昇る
「だって、私にこんなにも暖かい気持ちをくれたんだもの。」


誰かの不幸の上に生きなければならない。
薄汚れた運命を有りのまま受け入れてきた身体。


か細い腕が。その力を強める。


剣に生きた。人を斬るその為だけに存在した。
血塗られた運命に己を殺し続けた身体。


目の前の人を抱き寄せる


━こんなにも。


「私は…。」


━どうしようもなく。


「貴方を…。」


━ずっと。

















  『愛している』

















二人は唇を重ねた。


長い、長い間。


彼は彼女を想い、彼女は彼を想い。


互いに支えた。


互いに導いた。


悩み、また悩み。


時代に翻弄されてきた。


この時間だけ。この瞬間だけ。


二人は確かな幸福を感じ、噛み締めた。


ゆっくりと、名残を惜しむように唇を離す二人。


「お雪。俺と…!」

「なぁに?」


伝えよう。この想いを。


彼は決意を固める。偽りではなく、仮染めでもない。そうなりたい。


彼は心に残ったありったけの勇気を絞りだした。


「お雪!」


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