君が為に日は昇る
それから半刻程真田の説教にも似た嫌味は続いた。


それは祝言のことだけに止まらず剣の癖や私生活のことまで。


━この人を本当に師と仰いで良かったのか…。


ここまで来ると夜太がそう思うのも当然である。


日頃疎ましい蝉の鳴き声がこの日ばかりはとても素晴らしい歌声に聞こえた。


「まぁまぁ真田よ。その辺にしとけや。」


真田の言葉が止まったのは突然だった。


見ると大きな手がすっぽりと真田の口を覆っている。

そしてその手の先には真田よりも頭二つ分程抜けた熊のよう大男の姿。


乱雑に刈った坊主頭に不精髭。丸く大きな目で夜太を見つめている。


「いつまで口を…!窒息させる気ですか!」

「お、悪い悪い。」


苦しげに手を引き剥がす真田を、言葉とは逆に笑いながら叩く大男。


「痛いんですよ…。あ、夜太君。これと会うのは初めてでしたね。」

「てめ!これって言い方はねぇだろ!」


何が愉快なのか大男はまた大きな口を開けて豪快に笑って見せる。


しかしそれは夜太の耳には届いていない。


その体躯や声の大きさ以上に彼は驚愕していたのだ。
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