君が為に日は昇る
━この男、いつの間に道場にいた?


いくら憔悴していても、気が付かないはずがない。


それは気配であり、足音であり、姿である。
様々な事象がその存在を教えてくれるはず。


この巨躯な男からはそれらを感じないのだ。
結果、夜太は男をこう分析した。

━暗殺者の類。しかも相当の手練。


足音を、気配を完全に消した男は姿すらも捉えずらくすら感じる。


ここまでの技術を得るには余程の経験と鍛錬を積まなければ難しい。


実際、夜太もそれらを行使することは出来る。しかしこの男には遠く及ばないだろう。


分析した後、彼は背筋が凍りつくような錯覚を覚えた。


━もしこれが幕府方の刺客であれば。


己が気づくことなく、彼は物言わぬ屍とされていただろう。


「おいおい。そんな怖い顔をするなよ。敵って訳じゃねぇんだ。」


男の表情はにこやかなものだった。が、直ぐに真剣なものに変わる。


「護衛をやってるんならよ。一瞬たりとも気を抜くんじゃねぇ。」


低く野太い声が体を震わせる。


「てめぇの実力、確かめさせてもらうぜ?」
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