君が為に日は昇る
木刀が交錯した。

と、同時に衝撃に耐えきれない夜太の体は宙に弾き飛ばされる。


空中で反転、綺麗に着地した夜太。その眼前には再びの豪剣が迫る。


━その程度ならば貴方に分はないでしょうね。夜太君。どうしますか?


二人の戦いを静観していた真田。


次の瞬間、彼の表情は一変することになる。


夜太の身体能力。それが人より秀でていることは知っていた。


稽古の時も何度も自らの剣をかわし、くぐり抜けている。


それでも、此処まで。此処まで彼の動きは優れていただろうか。否。優れていない。


「うおぉぉぉぉっ!!」


怒声をあげながら木刀を振るう上条。縦横無尽に乱撃を放つ。

それを夜太は避けている。


最低限の体捌き。ただそれだけで。


見切っているのだ。降り注ぐ豪雨のような太刀筋を全て。


それが如何に難しいか。剣を志す者でなくとも理解出来る事だ。


決して上条の剣が遅い訳ではない。寧ろ凡庸の剣客ならば気付くことすらなく屍と化すであろう。


「それを此処まで見事に避け続けるか…。」


思わず口走った言葉。はっとして真田は口を押さえつけた。
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