君が為に日は昇る
だが守りに徹すれば勝ちはない。それを真田は解っていた。


一見、乱雑に振り回しているような上条の剣。


それは決して大振りではなくすぐに手元に戻るよう小さく細かに振るうもの。


攻守一体で非常に隙は少ない。


━その僅かな隙を突けるか。それが彼の勝機になる。


その隙はすぐにやって来た。


「ちぃっ!!」


当たらぬ事に焦った上条が僅かに斬撃の手を緩めたその時である。


まるで銃弾のように放たれた片手突き。それが上条を捕えた、かに見えた。


実際その突きは体に触れることなく、その手前。
上条の持つ木刀の柄。そこに突きたてられていた。


「なんと…!」


もう真田は声を押し殺すことを忘れていた。素直に彼の精彩の増した動きに驚嘆している。


「まるで…。」


━まるで…。


この時、真田と上条の思考は重なる。


『まるで稲妻のようだ。』 と。


━天賜(てんし)の才。今、彼の生まれ持った蕾が開花しようとしている。


「小っ僧ぉぉぉっ!!」


上条は夜太の木刀を払い退けると雄叫びをあげた。


自らを鼓舞し、そしてその身により深い殺意を纏っていく。
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