君が為に日は昇る
━身体が軽い。動きが見える。どうしたというのだ俺は。


夜太自身、己の変化に驚き、戸惑っていた。


本来、彼は確かな才を持ち合わせた男である。


幼少より鍛えあげられた身体。
様々な武具を使いこなす戦闘術。
戦闘により磨きあげられた動体視力。


凡百の剣士では決して持ち合わせない物を彼は持っていた。


しかし、それを封じ込めたのは弱き心。


時に激情に揺れ、押し殺し、与えるままの人生。


それは彼の足に絡み。


腕を固め。


眼を塞ぐ。


多くの鎖が彼の自由と心を縛りつけてきた。


己を抑えつけてきた。


それを断ち切ったのは、愛する女の言葉。


今、彼は己が意志で、己が為に戦う。


枯れかけた花の蕾に、水は注がれた。


土は黒々と潤い、葉は鮮やかな緑に染まり、蕾は見事に咲き乱れる。


━足が。腕が。眼が。この身体全てが。

━俺の意志に応えてくれる。

━そうか。俺は今。

━自由なのだ。


「おぉぉぉぉぉ!!」


彼は無意識に咆哮していた。歓喜にうち震え、涙を流し。


己が生まれ落ちた事に、初めての感謝を覚えた。
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