君が為に日は昇る
咆哮する夜太を前に殺意の塊。上条もまた歓喜していた。


━余りに脆弱な青年よ。

━改めるぜ。てめぇは充分に強い。

━だからこそ。


構えを正眼(中段)から上段に変え、腕の力を振り絞る。

「馬鹿な!政次!夜太君を殺す気ですかっ!」


真田の声は最早届かない。狙うは、渾身の一太刀。


━この一撃。

━剣士として振るいてぇ!


「っしゃぁぁぁぁ!」


野獣の咆哮が重なる。


夜太は深く腰を落とし、顔の横に木刀を添える。


鳥居の変化した構えで突きを狙う。


対する上段構えの上条が狙うのは必殺の兜割り。


━止められる雰囲気でない、ですか。

━ならば見届けましょう。貴方達の覚悟を。


真田は立ち上がりかけた自身を、再度座らせた。


見届けることも覚悟。と、眼を凝らし行く末を見守る。


二人の距離が徐々に、徐々に縮まっている。


一足一刀の間合い。互いに距離を探り合う。


先を取るか、後の先(返し技)を取るか。


更に接近。既に互いの射程距離に身体を沈めている。


ただ蝉の声だけが響く道場。


轟音がそれを掻き消した。
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