君が為に日は昇る
夜太の腕が消失した。否、したように錯覚したのだ。


何時腕を振るったのか。何時その一撃を打ち出したのか。


気付けばそれは上条の着物を切り裂き、脇腹に痣を作っていた。


それは『無拍子』と言われる一撃。


予備動作の全く無い状態から威力を殺さず技を放つ。武の最高峰にある技術である。


予備動作が無い為に合わせ技は非常に困難な上、軌道の予測すら不可能に近い。


事実、これを体現出来る人物など稀少極まりない。


だからこその真田と上条の反応である。


しかし夜太は上条に身体を預け、そのまま崩れ落ちるように倒れたのだ。


先の上条の一撃。それは夜太の顎先をかすめてもいた。


顎をかすめた一撃が彼の脳を揺らし体勢を崩させたのだ。


もし顎に当たっていなければ。勝敗は逆になっていたやもしれない。





「いや。当たったのは偶然だ。正直、次は勝てるかわかんねぇよ。」


横に眠る夜太を見て、上条は深く溜め息をつく。


「可愛い顔して、末恐ろしい小僧だぜ。」

「私の眼も、曇ってたようですねぇ。」

「お互いに、な。」


二人は嬉しそうに彼の寝顔を眺めていた。


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