君が為に日は昇る
一刻程たった頃。
夜太は二人の前に正座し、その頭を深々と下げていた。


「参りました。流石は先生正規の護衛の方。」

「顎先をかすめ意識を刈り取るなど並大抵の剣技では出来ぬこと。」

「感服致しました。」


性分を知らねば嫌味にすら聞こえる言葉も、彼を良く知る真田と実際に剣を合わせた上条にはしっかりと通じているようだ。


━まぁ偶然なんだがよ。

「夜太坊こそ大したもんだぜ。俺は真田と一緒で北辰流派の目録を持っちゃいるが…。」


危うく出かけた言葉を飲み込み、上機嫌に上条は彼の頭を撫でる。


「夜太坊ぐれぇ使う奴にゃ中々お目にかかれねぇ。特にさっきのあれ。誰に習ったんだ?」


上条も真田も興味の矛先はそこ。『無拍子』である。


二人は名さえ知っていれど実際にそれを見たのは初めてのことだ。


だが頭を上げた夜太から返ってきたのはなんとも気の抜ける答えだった。


「あれ…とは?」


よくよく聞いてみれば彼は立ち合いの最中を断片的に、特に己の放った技は覚えていないと言う。


それを聞いた二人は一瞬、間をあけた後に唾を吹き出しながら笑い転げていた。
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