君が為に日は昇る
「愛する人。優しい母。貴方はやっと人並の幸せを手にした。」

「貴方が死ねば悲しむことは解るでしょう?」

「もし剣を捨てても私はあの屋敷から出ていかせるような真似はしない。」

「出来うる限りの支援をしていきましょう。」

「もう戦うことをしなくてもいいんですよ?」


なんとも魅力的な話だ。


安全と生活を保証してもらい、幸せの中何不自由なく生きていくことが出来る。


それでも彼が頷くことはなかった。


「確かに。それはありがたいお話です。でも…。」


「俺は、夢を見てしまった。」

「新しい世界で、俺とお雪とお稲婆。そして俺の子が。」

「楽しそうな顔で微笑んでる姿を。」

「その未来を己の力で掴み取りたいんです。」


その時、真田は確かに見た。彼に源五郎の姿が重なるのを。


━曇りなき、良い眼をしている。

━全く。貴方の血の繋がらない息子は。

━意地っ張りで、真っ直ぐで。

━本当、よく似てきてますよ。源五郎。


真田はこみあげる笑みを必死に噛み殺す。


「…禁を解きましょう。これからもよろしくお願いしますね。夜太君。」


そういって、真田はそっと夜太の肩に手をかけた。
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