君が為に日は昇る
翌日、早朝。


幕狼隊屯所前に集まったのはその数二百に登る精鋭。


自信と気迫に満ち溢れた幕府最強の人斬り集団。


「行くぞ。」


局長による短く小さな掛け声。それに応える者はいない。


黙り局長の後ろについて歩く。


絶対的な象徴は、返事を必要としなかった。沈黙は肯定。それを隊士は解っていた。


「ひっ…」

「幕狼だ…眼を合わせるなよ。斬られるぞ。」


町人は彼らに恐怖し、声を潜め目をそらす。天府において彼らに逆らうことは死に繋がる。


それだけの力。名声、いや悪名を彼らは手にしていた。


幕狼。死を運ぶ狼。それが遂に動き出したのだ。






数日後、某峠道。


「そういえばよ新海。あいつぁどうした?姿をみねぇが。」

「ああ。あいつは別動隊に回した。富水にはこない。」

「ほう。そうか。」

「…!」


たわいもない会話をしながら富水目指し峠を登る幕狼隊。その前に。


「待っていたぞ!幕府の犬共!」


反幕府勢力の一団が立ち塞がることとなる。その数はおよそ三百程。


「待ち伏せか。」
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