君が為に日は昇る
前方に二百、後方に百。前後を挟まれた圧倒的不利な状況。


だが慌てふためく者はいない。逃げ出す者はいない。


むしろ笑みすら溢す者すらいる。


恐れ、不安、焦り、それが無いわけではない。


ただそれ以上にあるのは自信。


人を斬る為。その為だけに剣を握り、組織され、研鑽を重ねてきた。


覚えたのは単に剣や度胸だけではない。


人を斬る以外では得難い快感。正に狂気である。


狂気は自らの生死すら忘れさせる程に快感を求め続けた。


自信、そして狂気。


それを合わせ持つ飢えた狼。


その前に新鮮な肉が差し出された。


狼達は舌なめずりしながら待つ。


狼を統括する主の合図。その時を。


「おのれ幕府の犬共!涼しい顔をしおって!」

「貴様らに殺された同志の敵!今こそ晴らさせてもらう!覚悟!」


いきり立つ反幕府の猛者。それを見て陸野は口元を緩ませる。


「愚かだな…。」


待ち伏せ、挟撃。彼らは非常に有効な戦法を用した。幕狼隊出発から時間の無い中よく策を講じたものだ。


ただ惜しむらくは。


狼狩りに、銃でなく刀で挑んだことだった。


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