君が為に日は昇る
殺気に呼応するように彼の脇を飛び出した狼達。


僅かに生まれた隙を彼らは見逃さなかった。


始まったのは一方的にすら思える殺戮。


その牙が次々と獲物を噛み砕いていく。


「おい馬鹿共が。俺の分を残しておけよ。」


苦笑を浮かべ再度動き出す陸野。


迫る兵を上から下に袈裟懸けに一撃。続けて迫る兵を横一閃。


纏う狂気に似合わぬ流れるような動きで敵を葬り去っていくのだった。





「あ、あ…!」


次々と倒れていく仲間。前方から襲撃をかけた反幕府勢力の一団はそれを黙って見ていることしか出来ない。


目の前の仁王立ちする男、新海の存在によって。


巨躯で岩のような肉体を持ち、傷だらけの顔面がその気迫を一層引き立てる。


唯一優しげな眼もここでは不気味に映るだけである。


「後方は総崩れだなぁ。さて、どうする前方の諸君。」

新海はゆっくり刀に手をかける。


「戦って死ぬか。それとも、戦わずして死ぬか。」


それと同時に響いたのは鍔鳴りの音色。


「逃がしはしないがね。」


瞬間、最前列にいた兵が力無く崩れ落ちたのである。
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