君が為に日は昇る
遅れて流れ出る赤々とした血液。


首筋にくっきりと残った傷跡。狼の牙が喉笛を掻き千切る。


新海が放ったのは刹那の抜刀。いわゆる、居合い。


片手で振りきった刀には血の痕跡すら無く、刀身に妖しい輝きを残す。


その速さたるや凄まじい。抜刀、軸足、腕の振り。全てが眼に映らぬ程。


刀に手をかけたとほぼ同時に姿を現した刀。


神速とも言える閃光が兵の命を一瞬で刈り取った。


「一匹たりとも逃がすな。これは、戦いではない。」


刀を納め後ろを振り向く。その背中を兵達はただ黙って見ている。否、見ていることしか出来ない。


「これは狩猟だ。さぁ喰らい付くせ。お前ら。」


冷酷に笑う。


『しゃあああああ!!』


待ちくたびれたとばかりに歓喜の声をあげ突撃する狼達。


完全に臆した兵達は逃げ出す者、立ちすくむ者、半狂乱に刀を振り回す者。


反応は様々であったが勝敗はもう、明らかだった。


「おお陸野。もう後ろはいいのか?」

「ああ。まだ何人か抵抗してるが直に片付く。まったく、腹の足しにもならねぇぜ。」

「ふ。確かにな。」


< 98 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop