スリーズ・キーノート
「そうだ。僕はシノリの側にいたいが、その権利がない。」
「まだ、って事だよね?」
「と、思いたい。彼女次第。」
母さんの傷は、まだ治っていないんだ。イチさんがそうであるように。
母さんは、だから……父さんとは、一緒に暮らす事はないと……。そして僕も……。
「母さんは……?」
「買い物に行ってる。今日はご馳走だってさ。」
最後の晩餐かよ。涙が出そうだ。

僕も、過去を背負う1人なのか……。
そう解った今、心には虚無しかない。

「父さん。」
「ん?」
「もう行こう。」

父さんに、優しく頭を叩かれた。僕は、泣いていたのだ。
母さんに突き放されたから泣いているんじゃない。過去の話を聞いて、ただの傍観者だと思っていた自分が恥ずかしいからだろう、多分。
だからもう……ここから離れたい。
「荷物は?」
「後で送ってもらう。」
「……そう。じゃ、行こうか。」

過去の全てを知ったら、僕はここに戻ってこれるだろうか。母さんは僕に笑ってくれるだろうか。父さんは、母さんの傷を治せるのだろうか。
何も解らない。
解らないよ。


父さんと並び、僕はドアを閉める。

僕の少年期は、終わった。
過去に捕らわれた、大人達に囲まれて。


(僕の名前は、暁丘宗真になる。父さんから貰った真実の真。僕は、真実を、知り、たい。)
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