少女人形(短編集)
地上から射している光が、揺れる水のなかで煌いていてとても綺麗だった。
この海の底から見慣れている光景の筈なのに、
今日のこの景色は何故か特別に見えた。
ゆらゆらと無機質に揺れる光を見ながら、
長い水晶色の髪を解かしている手をふと止める。
「綺麗…」
そう呟いた時にはもう決めていたのかもしれない。
私はそれに導かれるようにして、ふと海面に上がって見たくなった。
地上なんて人間が蔓延ってる穢れた場所。
そう分かってからもう絶対に行くまいと思っていたのに何故だろうか。
でもその答えはきっと地上に上がって見ればわかる、
深く考えずにそう思ったのだ。

尾ひれを動かす度に人魚の少女の身体は海面へと近付いて行った。
光へ向かって昇り行くその姿は。
まるで光の中へ消えていくようだった。
< 4 / 27 >

この作品をシェア

pagetop