記憶
「ナナオ・ユリって、テレビにはあまり出ないからわからないけれど、我が儘だと思うな」
「まあ、確かにとても我が儘で気紛れだと聞いているけど」
「じゃあ、彼氏の浮気相手はそういう系でいこうかしら」
「ごちそうさま」
再び漫画家魂に火が点きそうな奏子をスルーして、僕は合掌した。
「それじゃあ、僕は寝るとするよ。奏子も、根を詰めすぎるなよ」
「はーい、おやすみ、紗都樹ちゃん」
「おやすみ」と返してから、僕は寝室に向かった。
2
明くる日の午後。僕は同僚の黒田幸子と共に、あらかじめ遊季七緒のマネージャーから指示された住所を辿り、そこにある店に行った。
なんの店かは教えられてなかったが―――
「…洒落た店だな」
そこは、オープンしたばかりらしいお洒落な喫茶店だった。
だが、中には人が全くいなかった。
僕は頭をすこしかいた。