中絶~僕は君を殺したい~
2-5 父・母・あき






あきは一人っ子だ。




その一人むすめのけっこんをよろこばない両親はいないだろう。





しかし、それはこの場合、少しちがってくる。





新しく買ったスーツでせいざしている。入り口に近い和室。




あきは両親をよんでくる、と言ったきり、もう三十分もかえってこない。




子供がいます。結婚させてください。




昨夜、携帯電話のメールフォルダーにたまった文字はだいたいそんな意味だ。





未送信メールでいっぱいの送信ボックスを開こうとスーツのポケットに手をいれるが、その時に両親が来てしまうことを考えて行動に移せなかった。




足がしびれてきている。






パッと時計が目に入った。





和室には似合わないかべかけ時計。




「・・・あ」




声は出る。




目を閉じて言葉をせいりしよう。




それから十分かけてまとめた言葉達はろうかを歩いてくる足音からにげるように頭の中からどこかへと消えてしまっていた。




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