中絶~僕は君を殺したい~
7-6 いぞん







「はずかしながらぼくの妻なんだよ。出会ったころの話になる。あれはぼくがきみとおなじくらいの年だった。」




ためらうように話した。




ぼくはあいづちを打たずに次の言葉を待つ。





「いまではストーカーと呼ばれるこういをかのじょはしていたんだ。高校生のときからだから4年くらいかな?元々、高校卒業するまでは付き合っていたから2年かな?ひどいふられかたをしたからね。ぼくではささえきれなかったんだ。」




指のはらで缶コーヒーをさすった。




「あのときからぼくは彼女が好きだった。でもさ、付き合っていないからってくすりのこととかも何もいえなくて。ぼくは彼女にそばで話を聞いているだけだった。ほんとうにそれが正しいことだとは思っていなかった。彼女にきらわれるよりはマシだって思った。ほんとうにぼくはダメな人間だよ。」




「・・妻のことをそれだけ好きだったってことです。」




「そうかもしれないな。言い方なり、うけとらえかたでいんしょうが変わる。ぼくも彼女がストーカーするのも彼女なりの愛情表現だと思っていたから止めなかったよ。ほんとうはなにもいえなかっただけなんだけどさ」




藤田さんは缶コーヒーのなかを見つめた。





「いつからかせいしんあんていざいを飲んでいることも知った。だんだんとおかしくなっていったのもだれの目から見ても明らかだった。そんなある日だった。」




「・・・」




「彼女が飛び降り自殺をしたんだ。けっきょく木の枝にぶつかって足が骨折しただけですんだからよかったものの。それからも何度も自殺をしようとするんだ。せいしんあんていざいを大量に飲もうとしたときもあった。泣きながら嫌だ、死にたくないって言いながら彼女はくすりを口にふくんだ。」




藤田さんの言葉が止まった。




こんなことを聞いていいのだろうか、とれいせいに思った。




ぼくはまだ他人事だと思っていた。
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