中絶~僕は君を殺したい~
7-7 いぞん2





「ぼくははじめて彼女に言ったよ。こわかった。彼女をうしなうことがこんなにもこわいとは思わなかった。実際にこの目で薬を飲んでいるすがたを始めてみた。ぼくの前で飲んでいたってことはそれだけしんらいされているか、止めてほしかったか、だろう。きっとそうにちがいない。そうやって何度もじぶんにいいきかせたよ。」




「なんて言ったんですか?」





「結婚してくれって」




「くすりをやめろ、じゃなくてですか?」





「ぼくもおかしいと思ったよ。でも口から出た言葉はそれだった。その言葉でしか彼女を止められないってなぜか思ったんだ。じぶんでもふしぎに思うよ。あれからは彼女は自殺をすることもなくなったし、まちがえてはなかったと思う」





「よかったですね」





言ってからじぶんのことばがおかしいことに気付いた。




ていせいしようにも何を言えばいいかわからなかった。





とまどっていると藤田さんが笑った。





「ああ。きっとよかったんだよ。でもね、うしなったものはたくさんある。」




笑顔がフッと消えた。




「子供ができなくなったのはそのせいもあるんだ。」




しせつの人たちを家族と思っているよ、と言った藤田さんを思い返した。
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