中絶~僕は君を殺したい~
11-5 ゆられる




終電にすべりこんだ。




ぼくはなぐれなかったんだ。



そのまま、引き下がってかえってきた。



みじめだ。



電車のアナウンスが流れる。



空気のぬける音がしてとびらが閉まる。



ガタン、ゴトン、



電車が発車する。



ゆれて



ゆられて



イスはたくさんあいていた。




冷たい手すりに背中をあずける。



携帯電話を取り出した。



「・・・なに?どうしたの?こんな時間に」




「いまからこいよ」




え?ととまどう声。




「いいから」




受話器から耳をはなす。




なにおこっているの?と遠くで聞えた。




ぼくはイラだつばかりだ。




電話を切った。



折り返しかかってくる電話にも出なかった。



電車はゆらり、ゆれていた。
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