君の手を繋いで
一人が欠けた時
八月十日。
その日は、日向の誕生日だ。
ただでさえ、日向の誕生日だ。忘れるわけがない。
それなのに、一年前の出来事から、尚更忘れることのできない日になってしまった。
その日に限って、雨が激しく降っていた。
それでも兄貴と日向は、出掛ける約束をしていたらしい。
兄貴は、日向との約束の時間に遅れそうだったらしく、慌しく支度をしていた。
「なんだよ兄貴。今日、日向とデート?」
洗面所で寝ぐせを直していた兄貴に、俺は分かりきったことを言った。
「ああそうだよ! やっべぇ! 時間が……」
そう言いながら、兄貴は寝ぐせと格闘していた。
兄貴も俺に負けじとクセ毛で、寝ぐせのつきやすく、直しにくい髪質だ。
しかも、今日は、湿気で尚更直りにくそうだった。
いくら彼女とデートだっていっても、どうせ日向だから気にもしないだろうに……
そう思ったけど、日向の前では決めたいだろうという兄貴の気持ちも、分からなくはなかった。
「じゃあ行ってくる!」
何とか寝ぐせを直したらしい兄貴は、急いで廊下を駆け抜けて玄関を出て行った。
どうせ日向は隣なんだし、日向だってそんなに時間にうるさいわけじゃないだろう。
そこまで急がなくても、と思いながら、俺は一人で兄貴を見送った。
それが、兄貴の最後の姿だとは、思いもせずに……