君の手を繋いで


その時、急に背筋に悪寒が走った。

勿論、寒いわけではなかった。むしろ、暑苦しいくらいの気温だ。


なのに、鳥肌がたって、手が震えた。



何なんだ……これ……




家の電話が鳴る音が聞こえて、俺は我に返った。

電話のコール音は、三回ほどで鳴り止んだ。多分母さんが取ったんだ。


「……勇太?」

耳元から日向の声が聞こえる。


「勇太? 聞いてる?」


「あ……悪い」

俺の声も、震えていた。


「大丈夫だよ」

今度は震えないように、そう言った。

日向を安心させる為にというよりも、俺自身も安心させる為に、口にした。


「兄貴の奴、寝ぐせ直すのに時間かかってたんだよ。遅れて家出たから、もうすぐそっちに着くんじゃねえか? 走ってったみたいだから、携帯鳴ってんのにも気付いてねえだけだよ」

「そっか。そうだよね」

日向はほっとしたような声になった。


そうだよ。兄貴に何かなんて、あるはずない。


あっていいはず、ないんだから……



「勇太!」

その時、母さんが部屋のドアを勢いよく開けて入ってきた。


「亮太……亮太が……」


母さんは血相を変えて、声を震わせていた。



嫌な予感だけが、的中した。




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