君の手を繋いで
その時、廊下で誰かがくる気配がした。
日向だ。
さっきの、電話で、日向にこのことを伝えた。
日向は、それをきいて、息を呑む気配だけさせて、何も言わずに電話を切った。
日向は、制服姿で、全身びしょ濡れで、息を切らせてそこに立っていた。
きっと、傘もささずに走ってここまできたんだろう……
「亮太は……?」
じっと、祈るような目で、日向は俺のことを見てきた。
俺は、もう一度涙を拭い、拳を強く握りしめて、出てくる涙を堪えた。
「……こっち」
思った以上に、声が出なかった。
俺は病室に入る。日向も、それについてきた。
ベッドの上に横たわり、顔に白い布をかけている兄貴を見て、日向の顔がすうっと白くなった。
フラフラと歩いてベッドのすぐ横に立ち、日向はその白い布をそっとずらした。
目を閉じた、無表情な兄貴の顔が、そこにはあった。
「……ねえ、勇太。亮太、死んじゃったの?」
じっと兄貴の顔を見つめたまま、日向は言った。
「ああ……」
何も返す言葉が思い浮かばず、俺はただ頷いた。
「寝てるだけ……じゃないの? ……だって、すごくきれいな顔してるもん」
日向の言う通りだった。
「そうだよな……俺も、そう思った」
兄貴は、頭を強く打っただけで、他に大した外傷はなかった。
外見は、生きていた時と、何ら変わりはなかった。
本当に、寝ているだけみたいだ。
顔を思いっきり引っ叩いたら、目を覚ますんじゃないかと思うぐらいに。
でも……それでも………
「でも……起きねえんだよ……兄貴……もう二度と……」
俺でさえ、受け入れることのできない事実を、俺はさもい受け入れているかのように言った。
そうでもしないと、日向は俺以上に受け入れることができないだろうから……