君の手を繋いで
「あ、勇太。行くんならついでに牛乳二本買ってきて」
玄関で靴を履いていると、母さんが顔を覗かせて言った。
「えー……パシリかよー」
「そんな言い方しないの。ついでよ、ついで。牛乳ならコンビニでも売ってるでしょ?」
そんなついではいらないんですけど……
俺の気持ちは関係なく、母さんは財布から千円札を取り出して、俺に差し出した。
「ほら。お釣りも使っていいから。行ってきて」
これでポカリとアイス代が浮いた。
単純にそう思って俺は母さんから千円札を受け取って財布の中に入れた。
「じゃ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。車に気をつけるのよ」
「へーい」
『車に気をつけるのよ』
兄貴が事故に遭ってから、俺が出掛ける時、母さんは必ずそう言う。
俺まで事故で死んでしまったら……
きっと、そう思っているんだろう。
兄貴が死んだ時、母さんは悲しみが相当応えていたから……
今だって、一日たりとも明るさを欠かさない母さんだけど、それと同時に、ほんの一瞬とも兄貴のことを忘れたりはしない。
俺だってそうだ。
だから、俺は、絶対に死なないと決めてる。
最悪、交通事故では。
いくら双子だからって、死に方まで一緒になってたまるか。
全部一緒なのは、生きてる時だけでも十分だったんだからな。