君の手を繋いで
「なんか、懐かしいな……」
俺にアイスを渡したあと、日向はポツリと言った。
「昔さ、夏によく勇太んとこのおばさんがお小遣いくれて、それでアイス買いに行ったよね」
「ああ……」
そうだ。
小さい頃の夏休みなんかは、日向はほぼ毎日家に預けられていた。
だから、母さんは、一人五十円ずつくれて、近所の駄菓子屋へ行った。
三人で、手を繋いで……
「勇太、いつもあたしのやつ欲しがってたよね」
「人のもんほど美味そうに見えるもんはないからな」
「ふっ。なにそれ」
日向が笑った。
日向がこういう笑い方をするのは、久しぶりだった。
「しかもさ、勇太が一口ずつ交換って言ったのに、いっつもあたしのを半分以上食べてたよね。あたしは少ししか食べてないのに」
「一口は一口だもんな」
そう言って、俺はその時のように口に入るだけのアイスを口に入るだけ一口で食べた。
「その一口が大きすぎるの」
日向は俺を指差して言った。
「返してって言っても返してくれないし」
「食ったもん出せってのか」
「そうじゃなくて。……ほんと、あの時と一緒だね、勇太は」
日向は呆れたような口調で言った。
「勇太がくれなかったからさ、いつも……」
その次の言葉を言う前に、日向の表情が変わった。
「いつも……亮太があたしにくれてたんだよ」
兄貴の名前を口にして、日向の声の調子が落ちた。