君の手を繋いで
伝えられない気持ち
俺が久しぶりに触れた日向の手は、昔は兄貴がいつも繋いでいた、左手だった。
そして、振りほどかれたその手の薬指には、シルバーの細い指輪が嵌められていた。
あれは、兄貴があの日、日向に誕生日プレゼントとして渡そうとしていたものだった。
兄貴が事故に遭った時の所持品の一つに、それはあった。
プレゼント用の包装が汚れてボロボロになっていたけれど、中身を見て、それが日向へのものだと分かった。
だから、兄貴の代わりに、俺が渡した。
日向は、何も言わずに受け取って、その後どうしたかは知らなかった。
それが日向の左手の薬指にあったなんて……
日向は、あの日から、あれをずっと嵌めていたんだろうか……
自分の部屋に戻り、日向の部屋の方の窓を見てみると、日向の部屋は、カーテンがひかれて、中の様子が分からないようになっていた。
完全に、避けられた。完全に、距離をおかれた。
今の状態から分かるのは、そのことだけだった。
俺はベッドに寝転がり、天井を見つめた。
…自業自得だ。
俺が日向にああ言えば、こうなることなんて、簡単に予想できたことなのに……
「ごめん、日向」
天井に向かって俺は呟いた。
今更言っても遅いな。
本当は、もっと伝えたいことが他にあるのに……
俺は、日向に何も伝えてない。
俺の、本当の気持ちを……