君の手を繋いで


ふと呼ばれた気がした。


懐かしい、声だった。


俺はそっちの方に顔を向ける。


「………!」

俺は驚いて体を起こした。


そこにいたのは、ここにはいるはずのない人物……


「兄貴……」


兄貴が、そこに立って、じっと俺を見ていた。


「兄貴……兄貴だよな?」

俺がそう聞いても、兄貴は何の反応も見せなかった。


確認するまでもない。俺と同じ顔の、その人物は、兄貴が死んだ日に着ていた服を着ている。

紛れもなく、兄貴だった。


「兄貴、何とか言えよ!」


それが生きている兄貴じゃないということは、頭の片隅で分かっている。

そこにいるということは、この兄貴は、所謂幽霊なんじゃないかと、考えていた。


でも、俺は、それは本物の兄貴だと、兄貴が帰ってきたんだと、本気で思ってしまっていた。


「おい、兄貴!」

俺が必死に呼んでも、兄貴には聞こえていないのか、それとも無視しているだけなのか、微動だにしない。


それどころか、兄貴はどんどん薄くなって、今にも消えてしまいそうになっていた。


「おい!待てよ!兄貴!」


俺は兄貴に手を伸ばした。


「兄貴!行くな!」



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