君の手を繋いで

『そんなの望んでねえよ。俺も……それに多分、勇太だって』

不意に兄貴が俺の名前を出した。

『え?』

日向が不安そうな顔になる。


何だよ、兄貴。

何を言い出すんだよ?


『勇太だって、日向のこと好きなんだよ。俺と同じように』


日向は、でかい目を更に見開いて、相当驚いたようだった。

俺も驚いた。


兄貴に口から、いとも簡単に俺の気持ちが日向に告げられた。


『……そんなの、嘘だよ。だって、勇太、たまに私にイジワルなこと言うし……したりもするし』

『勇太はガキだからそういうことしかできないんだよ。本当は、日向のことが好きなんだ』

『……勇太が、言ってたの?』

『言ったことはなかったけど……でも、見てたら分かるよ』


日向は、目を丸くしたまま、下を向いて、固まっていた。

兄貴はそれをじっと見て、やがてゆっくりと口を開いた。


『日向……日向は、ずっと俺達と三人でいたいって言ったけど、それは無理なんだよ。考えてみたら分かるだろ? 俺達はずっと、一緒に遊んで過ごしてた子供の頃でいられるわけじゃない』

兄貴が淡々と言うと、日向は黙って唇を引き締めた。


日向も、分かっていないわけではなさそうだった。


『日向……俺を選んでくれよ。そしたら、ずっと、三人一緒にいられるから』


何を言い出すんだ、兄貴……

日向が泣きそうな顔をして兄貴を見上げている。


『本当に……?』

とてもか細い声で日向は言った。

『本当に、一緒にいられる? 勇太も、一緒に?』

すがるような目で、日向は兄貴を見つめている。

『……ああ。日向のことは、絶対に一人にはしない』



――兄貴。

お前、日向に嘘ついたんだな……



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