君の手を繋いで
日向が行きそうなところには、全く心当たりはない。
でもきっと、学校とか、仲のいい女友達のところへは行ってない。
それは何となく感じた。
だけど、それで日向が行きそうなところっていったら……
――もしかして……
ふと思い当たった場所に向かって、俺は走った。
「日向!」
その辺りに行くと、俺は力いっぱい叫んだ。
その声は、雨の音によって、いとも簡単にかき消された。
誰もいない。
もちろん日向も。
俺は立ち止まって呼吸を整えようとした。
全力疾走したから、膝がガクガクする。
傘を持って来なかったから、全身びしょ濡れだ。
ここにはいない。
よかったような、悪かったような……
ここが、一年前に兄貴が死んだ場所だったから。
思った以上に雨が強い。
大粒の雫がアスファルトの地面に強く跳ね返っていて、大きな水溜りをたくさん作っていた。
去年も、こんな風だったんなら、きっと、人も車も気付かなかったんだろう。
雨音が大きくて、視界が悪い。
こんなところで兄貴は死んだのかと思うと、知らないはずなのに、兄貴が事故に遭った瞬間が目の前にあるようだった。
まさか、日向もここに来て、事故に遭ったんじゃと思ってきたけれど、ここまで人気がないってことは、多分、日向はここには来ていない。
くそ……どこ行ったんだよ。
俺はまたどこか日向が行きそうなところへ向かおうと、この道を渡ろうとした。
――勇太
不意に呼ばれた気がして、俺は足を止めた。
その瞬間、目の前をでかいトラックが通った。タイヤが思い切り水溜りの上を通って俺の腰のあたりまで水をかけた。
通り過ぎたトラックを目で追いながら、俺は固まっていた。
今、立ち止まらなかったら、確実に轢かれてた……
トラックが見えなくなってから、心臓が大きく動き出す。
トラックが死角から現れたからなのか、俺が日向のことを考えていて注意していなかったからなのか……
どっちにしても、気付いていなかった。