君の手を繋いで

「よし!」

俺はふと思い立って、その辺にあった石を拾って、ここを囲む木で一番太い木の幹に文字を刻んでいった。


右から縦書きに、


ユウ太
ヒナ太
リョウ太


三人の名を刻んだ。


「あー! 勇太違う!」

俺が刻んだ文字を見て日向が叫んだ。


「ひなたの『た』はこの字じゃないもん!」

「え? そうなのか? じゃあどの字だよ」

その時、漢字が苦手だった俺は、まだ日向の名前の漢字を知らずに、ずっと、こう書くのだと思っていた。


「お日様の『日』に『向』かうって書いてひなたなの!」

日向は怒ってそう説明していた。

そりゃ怒るだろう。

俺らと同じように『太』なんて漢字を使ったら、まるで男の名前のようになってしまうんだから。


「それでなんで『なた』って読めるんだよ」

特別な漢字の読み方を知らなかった俺は、首を傾げて日向に言った。


「それは……」

その時の日向には分からないようだった。


「いいじゃん。これでも」

そうやって言ったのは兄貴だった。

「こうして書いたら日向も俺らの兄弟みたいじゃん。俺らと一緒だぞ」

兄貴がそう言うと、日向は嬉しそうににっこりと笑った。


「ホントだぁー。そう見えるー」

兄貴が言ったことにすぐ納得して嬉しそうだった日向が、俺には何となく気に食わなかった。


「よし! んじゃ日向は俺の妹な!」

「えー! やだぁ! 日向がお姉ちゃん! 勇太が弟!」

日向もムキになって言い返していた。


そんな下らない言い合いをしながら、俺達の秘密基地は出来上がったんだ。



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