君の手を繋いで


日向に言われた通り、俺は一回に下りて洗面所に行った。


鏡で見てみると、日向が芸術的と言ったのも頷けた。

俺の髪は、全部広がって逆立っている上に、その毛が竜巻のように同じ方向に巻き上がっている。

これはすごい。直すのがもったいないぐらいだ。

いや、別に今日は出かける予定なんてないし、直す必要なんてない。


髪はそのままにして俺は顔を洗った。

そうするとスッキリする。

やっぱり夏はちゃんと洗った方がいいな。


日向に言ったら、

『夏だけじゃなくて一年中ちゃんとそうしてよね』

って言いそうだけど……


いや、今の日向は言わねぇか。

今の日向なら、軽く笑って、

『そんなの当たり前でしょ』

だろう。


水を止めて鏡を見ると、俺の顔が映った。



いい加減、見飽きたな、この顔……



俺はタオルで顔を拭いて、部屋へと向かった。




一年前までは、鏡なんてなくても、常に鏡を見てるようなものだった。




兄貴が死んだ、その日までは……




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