君の手を繋いで
「まだ残ってたのか……」
「うん。私もちょっとビックリした」
十年近く前につけた傷は、もうとっくに見えなくなっているだろうと思っていた。
そこだけは、俺達の記憶を残してくれているようだった。
さすがに、その時の俺の身長にあわせて刻んでいたから、多分、今の俺の腰のあたりにあったはずのそれは、俺の頭上のすっと上にあったけれど。
時間が経っているのだということは、そこが教えてくれていた。
「懐かしいね。ここでいっつも遊んでたの」
日向は一歩前に進んで、木の幹に触れた。
「……ああ」
どうして今そんなことを言うのか分からなかったけど、他に言うことが思い浮かばなくてただ頷いた。
確かに、懐かしかった。
もうここに来なくなってからは、全くといっていいほど覚えてなかったはずなのに、ここにくると、その時の記憶が蘇るようだった。
特に何をしたでもない。
でも、思い出の場所だった。
「私、三人で遊んだ中で、ここが一番好きだったな。ここに居たらいつも亮太と勇太が来てくれたから」
その時のことを思い出しているのか、日向の声はほんの少しだけ明るい気がした。
でも、それと同時に、無理してるような感じもあった。
「私の家、お父さんが居なかったでしょ。ずっと昔に離婚しちゃったから」
また話が変わって、今度は俺は戸惑って何も言えなかった。
うっすら知ってることだとはいえ、今までほとんど話にでてきたことがないことだった。
「別にね、お父さんのこと、全然覚えてないし、お父さんに会いたいとか、お父さんが欲しいとか、思ったことはないの。……でもやっぱり、寂しくないわけじゃなかったよ」