君の手を繋いで
「ちょっと勇太。汚い言葉遣いやめてよ。りょうが真似するでしょ」
日向が洗面所までやってきた。
「あ、ママー」
りょうはあっさりと俺の腕から抜け出し、日向の後ろに隠れた。
そこからひょこっと顔を覗かせて、嬉しそうに笑っている。
「何だよ。別に汚くねえし」
「『ねえし』っていうのが汚いでしょ! りょうは女の子なんだからそんな言葉遣い真似したら困るでしょ!」
「へーへー。分かったよ」
「勇太っ」
俺が喋るたびに、日向が睨む気がする。
りょうはもうすぐ四歳で、最近は俺や日向のいうことややることをすぐに真似するから気をつけないといけないのは分かるけど。
でも、今までずっとこれできたから今更変えんのも難しいし。
「……つうか、日向もなあ、りょうの前であんまり勇太って名前で呼ぶなよ。最近、ずっと俺のこと勇太って呼んでんだぞ」
りょうは最近、俺とパパと呼んでくれない。
理由は簡単だ。
りょうが一歳になるかならないかで、最初に言ったのが『ママ』でなく『パパ』だったから。
どっちが先か、軽く競ってた俺達だったから、それを俺がからかうと、日向は悔しかったらしく、それ以降は俺のことを『勇太』とりょうに刷り込んでいったのだ。
ホント、なんて母親だよ……
「いいでしょ、それぐらい。ねー、りょう」
日向が首をかしげて、笑顔でりょうに同意を求める。
すると、りょうも同じように笑顔で首を傾げると、
「ねー。日向!」
と、言った。
日向の表情は固まり、俺が思わず噴出してしまったのは、言うまでもない。