君の手を繋いで
「ゆうた! いたぞ!」
兄貴が木の幹にカブトムシを見つけて俺を呼んだ。
小さい頃は、単純なもんで、虫一匹見つけることが俺達にとっては宝探しみたいなものだった。
そして、その中でどれだけデカイのが捕れるかが、俺達のステータスでもあった。
だから、女の日向には、その価値なんて分からないと思っていた。
「ほら、見てみろよ」
五センチもないぐらいの小さなカブトムシをつまんで、俺は日向に近づけた。
これは、どちらかというとイジメ的な感覚で、こうしたら少しはびびるんじゃないかと思ったんだ。
でも、ここでも日向は俺の予想を裏切る。
日向は割と平気な様子でまじまじとカブトムシを見ていた。
「さわってみろよ」
それが何だか悔しくて、俺は更に日向に近づけた。
そうすると、流石に抵抗があるみたいだった。
でも、まごついた様子ではあったけど、おそるおそる手を伸ばして、俺からカブトムシを受け取った。
「やるじゃん。お前」
兄貴は意外そうに言った。
俺もビックリしてた。
日向は、右手の親指と人差し指でつまんだカブトムシを、じっと観察するように見ていた。
「すごーい」
やがて、ポツリと感想を言った。
「かっこいー!」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべて日向は言った。
「……だろ! すげえだろ!」
俺まで嬉しくなってそう言った。
子供なりに、価値観の共有というのができたのが、とても嬉しかったんだ。