感方恋薬-かんぽうこいやく-
あたしは、爺の言葉に素直に従う事にした。そして気が付いた。いい加減な事ばかり言って居る様に感じて居た爺に対して、何となく信頼感の様な物が出て来ている事を。

         ★

「紀美代」


あたしは、朝、学校の教室で彼女に小さく声をかけた。


「あ、お早う御座います、貴子さん」


紀美代は誰に対しても「さん」付けで呼ぶ。


彼女の癖なのか、それとも彼女流の世間の荒波乗り切り法なのかはちょっと不明だ。


あたしは、鞄の中から昨夜作った薬を、他の人に気付かれない様に周囲に注意を配りながら、それを渡した。
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