感方恋薬-かんぽうこいやく-
そう思ったあたしは、幸の前を何気無く通りかかると、


「おや、可愛いお弁当だねぇ。この果報者がぁ。いよっ憎いねぇ」


と、取り合えずひやかして見る。


幸は大いに狼狽する。


「い、いや、これは何と言うか…」


と、しきりに慌てて居たが、あたしは不敵な微笑みを残して視線だけ幸に残しながら、自分の席に戻った。


取り合えず牽制球は効果が有った様だ。


これで紀美代も少しはやりにくくなっただろう、が、何だこの虚しさは。あたしも明日は幸に食料の差し入れでもしてみようか。


         ★


そして放課後となった。


「幸雄さん一緒に帰りましょう」


紀美代は周りの視線を全く気にする事無く、幸の右手にじゃれついて行った。本当に恋は盲目と言うが、これ程典型的な例も少ないだろう。あの引っ込み思案の紀美代が人目も憚らずに幸にじゃれついて居る。
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