異物質
Aから始まる物語
俺は、フリーのライターだ。低俗雑誌に三文記事を書いて露命を繋いでいる。
相棒のキャメラマンの邑田と横丁の安酒屋で焼鳥とモツ煮で麦酒をやった。
週刊情事の原稿料は、たいしたもんではないが、月に一度麦酒にありつけるぐらい。
邑田とピュリッツァー賞獲得への野望を肴に時間を過ごした。
邑田は、情婦の家に帰っていった。
俺と邑田が全うな勤め人から足を洗ってだいぶ経つ。
女房にも逃げられた俺と違って、邑田はなんだかんだいって女が尽きることはない。
先月ぐらいから、邑田は六本木のジェニファーの家に頭陀袋一つで転がり込んでいる。
モツ煮で精力つけて、ジェニファーの臓物にぶちこむのだろう。
俺は、邑田と別れて酔客の中をトボトボと帰途につく。
近くのコンビニで煙草とウィスキーのポケット瓶を買う。
勤め人のころから住んでいるアパート。女房もいないから、いささか広い。
しかし、粗末な卓に辞書ぐらいしか家財道具がない。
新聞紙を広げて、缶詰でウィスキーをやる。
喉が渇いた。
俺は、またコンビニに向かった。
もう日付が変わる頃だ。
コンビニの駐車場の縁石に、女が腰かけていた。
でかい鞄を抱えている。
俺は、雑誌を立ち読む。女は、ずっと座っている。
俺は、ジュースを買うと外に出た。
「おい。飲むか」
俺が話しかけると、女が顔を上げた。あどけない顔だ。
女は、ひったくるようにしてオレンジジュースを飲み始めた。
いろいろと事情を聞こうとするが、ポツポツ話すだけで、あまり要領を得ない。
俺は、面倒になったんで帰ることにした。
すると、女がついてくる。
女は、俺の部屋の前まで来た。
しかたないので、女を部屋に入れた。
だいぶ疲れているようだ。
俺は、女を万年床に寝かせると、台所に寝袋で横になった。
明かりを消す。



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