この胸いっぱいの愛を。
・神田家の事情
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
────部活が終わった後。
私と将兄は必ず一緒に帰るようにしている。
将兄曰く、「危ない目に遭わないように」だとか。
まぁ確かに、彼が隣にいれば「危ない目」とやらには絶対遭わないだろう。
万一誰かに襲われそうになっても、将兄がぶっ飛ばしてくれるだろうから。
だから私は、暗い夜道でも安心して帰れる。
「おっ、おかえり〜」
リビングのソファーに座ってヒラヒラと手を振っているのは、長男の祐一郎。
私は“祐兄”って呼んでる。
「兄さん、帰ってたんですか」
「あれ、そう言われれば」
祐兄は多忙な人で、
私達より早く帰ってくるのは珍しい。
「今日ってバイトの日じゃないの?」
私の記憶が正しければ、
今日は駅前の喫茶店でバイトのはず。
「そのはずだったんだけどね、
飽きたから辞めちゃった♪」
「「………………」」
………“辞めちゃった♪”って。
「さすが、神田家の誇るテキトー人間」
バイト始めてから、
まだ一月も経ってないよね?
「“テキトー”とは酷いな。
“自由人”って言ってくれよ(笑)」
「…神田家の誇る飽き性人間」
「……桃香、無視はいけないよ?」
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