この胸いっぱいの愛を。
・在らぬ誤解
〜桃香side〜
「それで、テニス部に……」
話を聞いていて、痛いくらいに伝わってきた。
先輩の、将兄を想う気持ちが。
「今でも覚えてるんだ。
テニス部に入るって宣言した時の、部長の嬉しそうな顔」
その時のことを思い出したのか、先輩は恥ずかしそうにそう告げた。
あぁ、なんかいいな。
恋してます、って感じの表情。
でも………
「だったらどうして……」
どうして私でも良いなんて、一瞬でも思ったりしたの?
私の言いたいことが伝わったらしく、先輩は苦しそうな顔をして俯いた。
「……部長は、俺を好きじゃない」
「え?」
「あの人は一生、俺を見てくれない」
「……そんなこと」
やってみないと、わからない。
そう言おうと思ったけど、言えなかった。
弱気な先輩を見るのは初めてで……
軽率に、そんなことを言ってはいけない気がしたから。
「俺、ずっと見てたからわかるんだ。
部長の目に映ってるのは、俺じゃない。
あの人が本当に見てるのは……」
先輩はそこまで言って、悔しそうに下唇を噛んだ。
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