【短編】ノスタルジア
「なぁに一人で笑ってんだよ、気味わりぃ」

拗ねた子供の口調でトオルがぼやく。

「思い出したのよ。
私、トオルに初めて会った日からずっとおせっかいだったってことをね」

「忘れていたのかよ、呆れたヤツだな」

「覚えていたんだったら、声なんて掛けなきゃ良かったのに」

なんて、ちょっと嘯いて言ってみるあたり、私もだいぶ子供じみているようだ。

「だから、アレは俺のせいじゃねぇよ。
お前だって知ってたら声なんて……」

そこで、トオルが言葉をとめた。
見上げると、肩越しに太陽が見えてちょっと眩しい。

「何よ?」

ふい、とトオルが顔を背ける。
表情が見えないのが残念だな、と思う。

私だと知っていたら声は掛けなかったって言いたかったのかしら。それとも……?


病院に行ってもう一度トオルに説明を聞かせる。
私は立ち会わなかった。
だって、彼の体のことだもの。
身代わりになってあげられるわけじゃない。

もう一度説明を聞いて、それでも嫌なら仕方がないって思ったわ。
私も事前に調べたけれど、手術の成功率は確かに100%じゃないみたいだから。
特に、剥離してから長いとそれだけ治る確率も下がるみたいだし……。

残念だけど私は、トオルがいつそんな目にあったかも知らないのだ。
判断してあげられるわけがない。
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