【短編】ノスタルジア
――結局。

トオルは手術を受けることに決めた。

仕方が無いからおせっかいついでに手術当日、病院まで押しかけてやった。
その日も水曜日で、丁度会社の定休日だったのだ。

「トオルー」

一人きりで病室に横たわるトオルに声を掛ける。
本当は付き添いの彼女くらい居るんじゃないかと覚悟していたので、少し驚いた。

「フミ、お前なぁ。
わざわざ病室にまで押しかけるか、普通?」

トオルは目を閉じたままそう言った。

「いいじゃん、別に。
私がおせっかい女ってことは、トオルが一番よく知ってるんじゃないの?」

昔どおりの憎まれ口でも叩いてないと、不安でこっちが泣いちゃいそうだよ。

「フミ、こっちに来て」

トオルが私を呼ぶ。
瞳は閉じていても綺麗な顔に変わりはないので、傍に寄るだけで無駄にドキドキしてしまう。美形ってそれだけで危険だわ。

「何?」

無骨な指がそっと伸びてきて私の顔に触れた。
何故だか心臓がどきりと跳ねた。

「本当に目が見えなくなったらさ、こんな風に顔を触らないと相手の顔がわかんないのかな」

その声があまりにも弱々しかったので、なんていったらいいのか……。

「役得だって自分で言ってたじゃない。
大丈夫よ、トオル」

こんな風にしか言ってあげられないけど。

「大丈夫って、何がだよ」

トオルが声を荒げた。
強がりの彼が、不安でたまらないって、全身で言ってるのに。
どうして私は何もしてあげられないのかなあ。
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