【短編】ノスタルジア
後ろを向いて、ひぃと息を呑む。
だって、そこに居たのは黒い犬だったの。
ドーベルマンっていうのかしら。
私は極端な犬嫌いだから詳しい犬種はわからないのだけれど、とにもかくにも「強くて賢い」なんて言われていそうな黒い犬が、つぶらな瞳で私を真っ直ぐに見つめていた。
いいいい、今。
喋りましたよね、アナタ?
私は瞬きを繰り返す。
驚きと恐怖で言葉が出ないのだ。
「すみません。
ジョンが何か、粗相でも?」
もう一度、さっきと同じテノールの声が耳に届く。
犬の口は一ミリも動かなかった。
はて。
私ってばもしかしなくても、何かイケナイ妄想の世界に入り込んじゃったのかしら?
そう思って、視線をあげればそこに。サングラスをかけた綺麗な青年が居た。
いや、男性に綺麗という表現はふさわしくないのかもしれないけれど。他に表現を思いつかないんだから、仕方が無い。
柔らかそうな黒髪がさらりと揺れている。
針金が入っているといわれたら信じてしまいそうなほど、綺麗に整った鼻筋。
艶やかな紅い唇に、キメの細かい白い肌。
思わずはしたないほどに見蕩れている自分に気づき、慌てて言葉を紡ぐ。
「いえ。
……あの、この犬、ジョンって言うんですね」
普通に答えたつもりだったのに、青年は口角を上げて笑顔を作る。
それは好意的というよりむしろ、からかいを含んだ笑みだった。
……なんで?
だって、そこに居たのは黒い犬だったの。
ドーベルマンっていうのかしら。
私は極端な犬嫌いだから詳しい犬種はわからないのだけれど、とにもかくにも「強くて賢い」なんて言われていそうな黒い犬が、つぶらな瞳で私を真っ直ぐに見つめていた。
いいいい、今。
喋りましたよね、アナタ?
私は瞬きを繰り返す。
驚きと恐怖で言葉が出ないのだ。
「すみません。
ジョンが何か、粗相でも?」
もう一度、さっきと同じテノールの声が耳に届く。
犬の口は一ミリも動かなかった。
はて。
私ってばもしかしなくても、何かイケナイ妄想の世界に入り込んじゃったのかしら?
そう思って、視線をあげればそこに。サングラスをかけた綺麗な青年が居た。
いや、男性に綺麗という表現はふさわしくないのかもしれないけれど。他に表現を思いつかないんだから、仕方が無い。
柔らかそうな黒髪がさらりと揺れている。
針金が入っているといわれたら信じてしまいそうなほど、綺麗に整った鼻筋。
艶やかな紅い唇に、キメの細かい白い肌。
思わずはしたないほどに見蕩れている自分に気づき、慌てて言葉を紡ぐ。
「いえ。
……あの、この犬、ジョンって言うんですね」
普通に答えたつもりだったのに、青年は口角を上げて笑顔を作る。
それは好意的というよりむしろ、からかいを含んだ笑みだった。
……なんで?