【短編】ノスタルジア
冗談めかした口調で、トオルが意味の分からないことを言ってきた。

「何、それ。
どういうこと?」

「俺が先に質問したんだから、先にお前が答えろよ」

なんていうか、会話のレベルが中学生なんですけど。
さっき私の目の前に現れた美青年は幻だったのかしら?

この店に入りたそうな人の視線を感じて、私はトオルを引っ張った。
営業妨害で訴えられても困るし、ね。

「分かったわよ、ちょっとこっちに来て」

「……ふぅん、目が見えないとあっさり手を握ってもらえて、得なんだな」

途端。酷く冷めた口調でトオルが言う。

「何よ、それ?」

壁まで移動して立ち止まった私は、既に詰問口調だった。

「お、出た出た。その口調。
学級委員のタカシナ フミっ」

クツクツと笑い出す。
そう、中学時代の大半学級委員をやらされていた私は、毎年同じクラスになるトオルのことを担任からよく押し付けられていたのだ。

なんか、トオルは私の言うことなら聞くなんていう厄介な迷信を不思議と皆信じていて。大変な迷惑をこうむったことまで思い出してしまった。

「もう、学級委員なんて存在しないわ。
私はしがないOLなんですーっ」

イーだ、と。
口を思いっきり横に広げてみる私も、多分中学レベルの表情をしているに違いない。
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