【短編】ノスタルジア
「しがないって言葉が似合う年じゃねぇだろ」

同い年のトオルが楽しそうに口を歪める。

「あのねー、男性はどうだか知らないけど、OLなんて25歳になったらもう、お局様なんだから。
去年まで居てくれた先輩も寿退社で辞めちゃって、私が部署で一番年上だし?
同期で残ってるのももう4人――みたいな」

「へぇ。
じゃあ、フミは売れ残り?」

バシンっ

直後、乾いた音が空気を振るわせた。
私は思わず、トオルの頬をぶっていたのだ。

「痛ってー。
ちょっとそれは酷いんじゃない?
盲導犬連れてる男を殴るかな、普通」

何、それ。
ちょっといい気になりすぎなんじゃないの?
だいたい、喧嘩三昧だったくせに。私に平手打ちされたくらい、蚊に刺された程度に感じるんじゃなくて?

「関係ないわよっ。
久々に会った同級生に言いたいことはそれだけ?
だったらもう、どっかに行っちゃってっ」

やっぱりトオルはトオルだ。
見目が変わったからと言って、中身が変わっているわけじゃない。
私に対していつもいつも失礼で……

ふわり、と。
トオルの大きな手のひらが私の頭を撫でた。

「泣きながらそんな風に言われたら、放っていくわけにはいかないじゃん?」

……人が泣きたいときにこうやってどこからともなく現れて、慰めてくれるところもちっとも変わってない。
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